春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
公園を出た私たちは、繁華街の近くにある橋へと向かってゆっくりと歩いていた。
ぽつぽつと点いていく街灯の光が、彼の頬をより一層白くさせる。


「あの日も、こうして手をつないで…街中を歩いていたんだよ」


憶えていないだろうけれど、という彼の声にならない声が聞こえた気がした。


「クリスマスだった」


彼の横顔は雪のように儚げで、今にも消えてしまいそうだった。

その存在を確かめるように、わたしは繋がれている手に力を籠めていたのだけれど、彼は気づいていないようだった。
彼に比べたら、微々たる力だからなのかもしれない。


ふと、彼は足を止めた。
橋まではまだ距離があるのに。
急にどうしたのだろうと思って隣を見上げれば、彼は私の首に巻かれているマフラーを見つめていた。

黒一色のコートに映える、純白のマフラー。


「そのマフラーは、君がくれたものなんだ。初めて自分で稼いだお金で買って、俺に贈ってくれた」


そっと手を伸ばすと、猫を撫でるように優しく触れた。

とても、とても大切そうに。

嬉しそうにはにかんで。


「君は俺からの贈り物を、憶えていますか?」


答えを聞くまでもない質問を、私にした。
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