春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「ち、違っ…」
「何が違うの?何が本当なの?」
「あの、私は、本当にっ…」
はたはたと涙をこぼし始めた紗羅さんの前に、幹部の晃さんが庇い立った。
右手で拳を作り、獣のような目で維月さんを見ている。今にも殴り掛かってきそうだ。
晃さんは喧嘩っ早い人だ。苛立つとすぐに手を出してくる。村井さんはよく分からないけれど、総長の夏樹さんは紗羅さんのためなら何だってやってしまいそうだし。
もしもここで喧嘩になったらどうしよう。
「…君が本当に柚羽と“大の仲良し”なら、俺よりも先に柚羽に声を掛けていたはずだ」
紗羅さんが息を飲む音が聞こえた。
「それは維月さんが居たからっ…、」
「へえ、嬉しいな」
間髪入れずにそう答えた維月さんは、繋いでいた私の手を離すと、私を隠すように立った。
そうされた私は、今維月さんがどんな表情をしているのかが分からない。けれど、彼越しに紗羅さんが震えているのが見えた。
「柚羽のことを散々傷つけて、学校中でありもしないことを言いふらして、果てには“人殺し”呼ばわりをした、最低な人にそう言ってもらえて嬉しいよ」