春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
何となくだけれど、維月さんは冷たく微笑んでいるような気がした。
棘のある言い方だったし、どことなく楽しそうだったから。
「な、んで…、」
紗羅さんの顔が歪んだ。更に涙が溢れ出しているというのに、維月さんは容赦ない。
「驚いた?柚羽に関することは全て報告を受けていたからね」
「っ…」
何、それ。
一体誰が、なんて。
思い当たる人物は一人しかいない。私のことを報告する人なんて、“ある人”から私を見守るようお願いされていた、りとくらいだ。
それじゃあ、彼は私が紗羅さんから受けていた数々の嫌がらせを知っているというのか。
「一体何を見聞きしたのか知らないけど、俺は犯人と揉め合って歩道橋から転落しただけだ。幸い命に別状はなかったし。柚羽も被害者。俺が守れなかったせいで、怪我をさせてしまった。ただそれだけのこと」
維月さんは吐き捨てるように言うと、紗羅さんに背を向けて私の方を向いた。
琥珀色が揺れる。唇が弧を描く。花が咲くような綺麗な笑顔を浮かべた維月さんは、私の元へと戻ってきた。