春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「維月さん、私はっ」
「もう喋らなくていいよ、不愉快だから」
泣き出した紗羅さんを突き放すように、維月さんは鋭利な言葉を放った。
私を抱きしめ、涙を流し、優しい言葉をくれた彼とは思えない姿に、思わず息をするのを忘れて見入った。
正直、少しだけ怖かった。けれど、迷いなく言い放つその姿は格好良くて、見ていて胸が高鳴る。
「俺は嘘を吐く人間が大嫌いだ。よく覚えておいてね」
そう言うと、私の隣へと舞い戻る。冷たい空気に晒されていた私の手を取り、優しく握った。
「――てめえっ、さっきから好き放題言ってやがるが、こいつが誰か分かってんのか!?神苑の姫だぞ!?」
ついに堪忍袋の緒が切れたのか、幹部の晃さんが怒鳴り声を上げた。
泣き出した紗羅さんを夏樹さんに寄り添わせると、大股で維月さんの目の前へとやって来る。
「神苑の姫だから何?柚羽を傷つけていいとでも?」
維月さんは私を引き寄せると、呆れたような目で言い返した。
「当たり前だろっ…!そいつは散々紗羅を苦しめたんだからよっ!」