春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「…神苑、ね。関東一の暴走族だと聞いているけれど、もう少し頭を使った方がいいと思うよ」


地を這うような低い声に、晃さんと紗羅さんは身を震わせていた。

琥珀色の瞳が、総長の夏樹さんへと向けられる。

維月さんはにっこりと微笑むと、薄っすらと唇を開いた。


「君たちなんて、15分もあれば潰せるから」


それは、夏樹さんたちのことを言っているのか。それとも、神苑のことなのか。
どちらなのか分からない。けれど、維月さんの目は本気だった。


「っ…！？」


晃さんを柵まで追い詰めた維月さんは、その胸倉を掴んだ。

美しく微笑んだまま、ゆっくりと顔を近づけ、晃さんの耳元で囁くように言葉を放つ。


「――今後、柚羽に指一本でも触れたら…今の言葉通り、潰してあげるよ」


そう言うと、維月さんは晃さんから手を離した。

維月さんから解放された瞬間、晃さんは眠るように意識を失った。

それほどまでに維月さんが恐ろしかったらしい。

夏樹さんは村井さんが晃さんの元へと駆け寄るのを見た後、紗羅さんを抱きしめながら維月さんの方へと向き直った。
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