春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「―――お前は “誰”だ?」
そう尋ねた夏樹さんに、維月さんは笑みを深めて答えた。
「…御堂、維月」
その名を知っているのか、夏樹さんは舌打ちをすると、紗羅さんを横に抱き上げた。
「…紗羅、行くぞ」
夏樹さんの首に腕を回した紗羅さんは、子供のように声を上げて泣きじゃくる。
「やだよお…っ、どうして、どうしてその女がっ…」
ポロポロと涙をこぼす紗羅さんの額に、優しいキスが落とされる。
紗羅さんを安心させるように微笑んだ夏樹さんは、見たこともないくらいに優しい表情をしていた。
「…泣くな。何があっても、俺は紗羅の傍に居る」
それはきっと、紗羅さんだけに見せる姿。
「ほんとうっ…?いなくなったりしない…?置いて行かない…?」
紗羅さんだけに贈る笑顔。
「ああ。傍に居る」
夏樹さんはもう一度口付けを落とすと、私たちに背を向けて歩き出した。
その後ろを、晃さんを背負った村井さんが歩く。
維月さんは何の色も宿さぬ瞳で見送ると、ゆっくりと私を抱きしめた。
終わったんだ。ふと、そう思った。
そう尋ねた夏樹さんに、維月さんは笑みを深めて答えた。
「…御堂、維月」
その名を知っているのか、夏樹さんは舌打ちをすると、紗羅さんを横に抱き上げた。
「…紗羅、行くぞ」
夏樹さんの首に腕を回した紗羅さんは、子供のように声を上げて泣きじゃくる。
「やだよお…っ、どうして、どうしてその女がっ…」
ポロポロと涙をこぼす紗羅さんの額に、優しいキスが落とされる。
紗羅さんを安心させるように微笑んだ夏樹さんは、見たこともないくらいに優しい表情をしていた。
「…泣くな。何があっても、俺は紗羅の傍に居る」
それはきっと、紗羅さんだけに見せる姿。
「ほんとうっ…?いなくなったりしない…?置いて行かない…?」
紗羅さんだけに贈る笑顔。
「ああ。傍に居る」
夏樹さんはもう一度口付けを落とすと、私たちに背を向けて歩き出した。
その後ろを、晃さんを背負った村井さんが歩く。
維月さんは何の色も宿さぬ瞳で見送ると、ゆっくりと私を抱きしめた。
終わったんだ。ふと、そう思った。