春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「柚羽チャンは、ラストクリスマスの被害者なんです」


鼓動が跳ねるように高鳴った。

だって、あの事故が事件だなんて知らなかったんだもの。


「…つまり、」


「はい、お察しの通りです。彼女は御堂組の若頭に愛されていた女の子ですよ」


紫さんの目が大きく見開かれた。


「…そうでしたか。なるほど…それで、記憶を…」


顔色をうかがうような視線を向けられたけれど、それが何なのかがさっぱり分からなかった私は、少し首を捻ることしか出来なかった。

どうやら私は、事故ではなく“ラストクリスマス”と呼ばれている事件の被害者だったらしい。それだけでなく、御堂組の若頭に愛されていたという。


(……御堂組…?って、どこかで…)


御堂組の、若頭。聞き覚えのある単語が、頭の中を泳ぐ。

若頭はヤクザの組織のようなものの中で、トップに次ぐ権力を持っている人のことを指すと聞いた。

姉と関係を持っている男性の息子であるヘキルさんが、崇瀬組の若頭だとりとが言っていたから、組違いで同じ立場である人ということになる。
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