春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「柚羽チャン。ひとつ目、分かった?」
私にとって大きな真実となる欠片は集まりつつあるというのに、中々導き出せないでいる私へと、気遣うような優しい声が降る。
事故ではなく、事件。
その被害者である私。
そんな私を愛してくれた、御堂組の若頭。
それらと結びつく人は、あの人だ。
琥珀色の瞳を揺らしていた、綺麗なひと。
名前は、御堂…維月さん。
妖しい光を放っている諏訪くんの目を見て、ゆっくりと頷けば。
笑顔を崩した彼は、今にも泣きだしそうな顔でこう言った。
「君は御堂組の若頭…御堂維月さんに愛されていた女の子だ」
あの人が、私を。
私を愛してくれた人だったんだ。
「御堂組は度々崇瀬組と衝突していた組でしたよね?」
「はい。でも、大きな抗争があったのは、僕がまだ小学生の頃でしたよ」
「…あれはニュースで報道されていましたからね」
御堂組の若頭である維月さんが、私を愛してくれた人。
それは、ようやく明かされた真実の一つ。