春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「柚羽チャン。続き…話しても大丈夫かな?」


俯いた私へと、優しい声が掛けられる。やさしすぎて、涙が出そうになった。

けれど、泣かない。もう泣くわけにはいかないのだ。そうしたいのは、私じゃなくて維月さんなんだから。

私は軽く鼻を啜って、顔を上げた。目一杯の笑顔を浮かべれば、諏訪くんは安心したようにホッと息を吐いた。


「維月さんは若頭になる前…18歳の時に、君に出逢ったんだ。ヤクザになんてなりたくない。けど、自分は跡取り。どうしたらいいのだろう、と苦悩する日々の中で、君に出逢った」


私と出逢ったのは、若頭になる前。なりたくなかったのに、維月さんはどうして受け入れたのかな。


「柚羽チャンに出逢って、維月さんは変わったんだ」


諏訪くんは優しさを増した声音で、そう言い放った。

私に出逢って変わった、なんて。信じられないよ。何の取り柄もない平凡な人間である私が、彼の何を変えたのだろう。

私は息継ぎをするように、冷めてしまったココアを喉に流し込んだ。

甘くて、ほろ苦かった。
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