春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
何て人なんだ。姉という恋人がいるのに、私にそんなことをするなんて。

自分の恋人が誘拐されて危ない目に遭ったら、犯人に対して怒り狂うのは当然のことだけれど、後を継ぎたくないヤクザの力を使うくらい私は大事にされていたんだ。

使いたくもない力を、使わせてしまったんだ。


「…全てを失った男は、狂った。あろうことか、殺人鬼になったんだ」


私は耳を疑った。

全てを失った、って…ヤクザの力って、それほどまでに恐ろしいものなの?

殺人鬼って、ドラマや映画の世界にしかいないと思ってた。

呆気に取られている私を見て、諏訪くんは口元だけで微笑んだ。そうだよ、と言っているようだった。


「男は行方をくらませながら、次々と人の命を奪っていった。神苑のお嬢さんの両親も被害に遭った。…何十人もの人々が殺されてしまったよ」


内容を整理すると、私に心を奪われた男は、姉の恋人で。維月さんによって全てを失ったその男は殺人鬼になって、人の命を奪っていった。

人の命を奪うなんて、決して許されない行為だ。腹いせだとしても。恨みがあっても。
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