春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
意味が、分からない。

分かるけど、分かりたくない。

だって、そんなのって…そんなことってあるの?

諏訪くんのお兄さんが姉の恋人で、御堂組に全てを奪われて、殺人鬼になったって…。

何の、物語?


私はごくりと唾を飲み干して、諏訪くんを見つめ返した。

諏訪くんは嘘を吐く人じゃない。物語でなく現実なのだということは分かっているけど、信じられなかった。


「僕は兄を捜すために維月さんと連絡を取った。定期的に君の様子を伝えることを条件に、維月さんからたくさん助けて貰ったよ」


それは事件の後の話だよね。私の様子を伝えるって…りとだけでなく諏訪くんもだったなんて、思いもしなかった。

でも、それなら転校初日に私の目の前に現れた理由が分かる。

神苑の人たちから私を守ってくれたのも。


(……あれ?)


それじゃあ、りとは…?

お願いをされた、と言っていた気がする。

でも、今までの話からして、りとは暴走族やヤクザと何の関係もない一般人だ。

いつ、どこで維月さんと出逢ったのだろう?
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