春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「…でも、神苑の連中にバレたんだ。僕が殺人鬼の弟であることと、御堂組と関わりがあることが」


諏訪くんの声が、歪んだ。

つられるように、紫さんも苦しそうな顔をしている。


「神苑にとって、御堂組は敵に等しいんだ。ただの暴走族だけれど、神苑をつくったのは崇瀬組の人間だから」


だから、と小さな声で繋いだ彼は、まるで正面に誰かが立っているかのように、真っ直ぐ宙を見据えた。


「僕は族を追放され、“裏切者”や“死神”と呼ばれるようになった」


今にも泣きそうな顔と声で、諏訪くんは言った。


「…柚羽チャン」


絞り出すような弱々しい声で私の名前を呼んだ諏訪くんは、か細い声音で言葉を紡ぐ。


「…僕は、君から大事なものを奪った男の弟だ」


息が、止まる。

一定のリズムを刻んでいた鼓動が、速さを増して激しくなっている。

私が維月さんに関する記憶を喪うきっかけをつくった人の弟が、諏訪くんだっただなんて。

だからと言って、諏訪くんを恨んだり憎んだりすることはない。それは断言できる。

でも、諏訪くんは…?

無意識に逸らしてしまった視線を戻せば、彼は泣いていた。


「それでも君は、僕を“友達”だと思えますか?」
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