春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「大切なのは、関係よりも心なんですよ」


物語を語り聞かせるような優しい声で、言葉が紡がれていく。

その姿を見て、私は喧嘩をして以来、顔を合わせていないりとのことを思った。

小瓶からスティックシュガーを取り出した紫さんは、マグカップの中にサラサラと投入した。そして、指先でゆっくりとティースプーンを回転させると、優美に微笑む。


(……そうだよ、諏訪くん)


諏訪くんが犯人の弟だからって、諏訪くんに対する気持ちは変わらないよ。

そんなことで変わる関係だったら、偽物じゃないか。


「……怖かったんだ」


諏訪くんの瞳から、透明な雫がこぼれ落ちた。


「…知った瞬間、君も僕から離れていくんじゃないかって思った。初めから何もかもを知っていて、今日この日まで何を言わなかった僕を憎むんじゃないかって思った。殺人鬼の血を引く僕なんて、君から大事なものを奪った男の弟の僕なんてっ…、」


「(馬鹿っ!)」


誰の鼓膜も揺らすことが出来ないはずの声が聞こえたかのように、諏訪くんは大きく肩を揺らした。

赤く腫らした目を大きく見開きながら、私を凝視している。
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