春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
私は今、何を言おうとしていたのだろう?

小首を傾げている姉に背を向け、逃げるようにローファーに足を突っ込み、玄関の扉を勢いよく開けた。

外の世界へと身を投じた私を迎えるのは、眩い陽の光と熱い温度。


「(……彼って、なに?最低な…?)」


姉は、私に何をしたっけ?

何かされたから私は彼女のことをよく思っていなくて、彼女も同様に私のことをよく思っていないのだろう。

嫌いという感情が胸の内を巣食っているのに、どうしてそう思っているのかがまるで分からない。

ごっそりと記憶から抜け落ちたかのように、何も。

何も、思い出せなくて。


「―――柚羽!?どうしたの!?」


教室に入った瞬間、膝から崩れ落ちた私の元へと聡美が駆け寄ってくる。

頬に添えられた手の熱が心地よくて、無性に泣きたくなった。


「(なんでも、ないの…)」


姉は姉だ。血は繋がっていないけれど、12年前から我が家の一員として、私の姉として生きてきた人だ。

ただ、それだけのことなのに。

どうして私は、あんなことを思ったのだろう。
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