春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「(殺人鬼の弟だから何なのよ!諏訪くんは諏訪くんじゃない!!そんなことで“もう関わらないで”とでも言う人間だと思ってたの!?私ってそんなに信用ないっ…!?)」


「ゆ、柚羽チャ…」


「(じゃあ聞くけど、諏訪くんにとっての私は何なの?友達だと思っていたのは私だけなの?もう友達じゃないのっ…?)」


「柚羽チャン…声、聞こえない…」


音にならない言葉をつらつらと立て終わった私は、手のひらをぎゅっと握りしめながら、諏訪くんを睨みつけた。

いいよ、聞こえてなくたって。

何も届いてなくたって、言いたいことを言えたからいいもん。

私はプイッと顔を逸らし、握りしめていた手のひらの力をそっと抜いた。


「ーーーもう友達じゃないの?だってさ」


耳に心地よい柔らかなアルト声が、落ちた。

視界の端で、艶やかな黒髪が揺れる。


「この野郎って、言ってるよ。怒ってる」


馬鹿。そんなこと言ってないよ。

でも、ありがとう。

戯けたように笑っている彼を見て、自然と笑みがこぼれた。
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