春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「璃叶…」


突然現れたりとは、雨に降られたのか全身びしょ濡れだった。

慌てて立ち上がった紫さんが、タオルを取りに奥へと消えていく。


「…どうなの?晏吏」


私の声なき声を聞いて、諏訪くんへと届けたりとは、小首を傾げながらそう尋ねた。


「…………です、」


「聞こえない」


「友達がいい、です。というか、友達になって欲しい、です。あれ、友達…なんだよね?友達ですか?」


「なんで敬語になってるんだよ」


「いや、なんか、勝手に…」


なっちゃった、と泣き笑いをした諏訪くんを見て、りとは笑い出した。

タオルを手に戻ってきた紫さんも、この空間がやさしく温かくなったことを感じ取ったのか、穏やかな目でふたりを見ている。


「(友達だよ、諏訪くん)」


そう言って笑ってみせれば、諏訪くんも笑ってくれた。


「…今言うのもなんだけどさ、」


濡れた頭を拭き始めたりとは、一つ咳払いをすると口を開いた。


「週末、事故現場に行こう。何か思い出すかもしれない」


「……柚羽チャンさえよければ」
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