春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

むらさきだちたる

「―――明日、でしたよね?」


あれから二日後である金曜日の朝。

いつも通りに食後のコーヒーを淹れていた紫さんが、キッチンのカウンター越しにそう尋ねてきた。

黙々とサラダを頬張っていたりとは箸を持つ手を止め、紫さんへと視線を動かす。


「そうだけど。それがどうしたの?」


何が明日なのだろうかと疑問に思ったが、りとの返事から察すれば、事故現場に行く日程のことだろう。


「…雪が、降るので。暖かい格好で行くのですよ」


「今日言われても、明日には忘れてるかもよ」


りとはふふっと笑って答えた。

紫さんは口の端を緩めると、手に持っているマグカップを傾け、煽るように喉に一気に流し込んでいた。

紫さんの様子がいつもとどことなく違うことに気がついたのか、私の目の前に座っている諏訪くんの表情が微かに変わった。


「あのー、紫さんは明日居ないんですか?クリスマスなのに」


紫さんが水道の蛇口を捻ったのを見て、諏訪くんは伺うような声音で問いかける。


「はい、いません」
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