春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
今度こそ崩れ落ちたりとの元へと、諏訪くんと聡美が駆け寄った。
私は呆然とその光景を見ていた。

刹那、紫さんと目が合ったような気がしたけれど…きっと、気のせいだ。

私たちが大好きだった紫さんはどこにもいないのだと、冷たくなったマフラーが物語っている。


「あーあ、面白い。柚羽には面白いオトモダチがいるのねえ」


その光景を見て嬉しそうに笑っている姉が、おどけたように笑いながら言った。

ふざけてる。私の大事な友達に向かって、そんな風に言うなんて。

記憶を喪ってから、どんなに酷いことをされても、言われても、お姉ちゃんはお姉ちゃんだったから、堪えていたものがあった。

けれど、もう、無理だ。

この人は、私の姉なんかじゃない。

湧き出す感情に任されるがままに、私は姉の頬を思い切り叩いた。


「――…っ何をするのよっ!?」


「(ふざけないでよ!!!)」


力いっぱいにやってしまったせいか、手のひらがジンジンと痛んだ。

こんな痛み、りとが受けた心の痛みに比べたらちっぽけなものだ。
暴力なんて嫌いだけど、振るったことに後悔はしていない。
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