春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「―――へえ!じゃあ古織さんは、この街のことを知らないんだね」
他所からやって来た転校生というものは、どこの学校でも質問攻めをされるのは当たり前だ。
私も例外ではないのだけれど、それはつい三分前に打ち切りになった。
唯一私に色々なことを聞いてくる少女以外はもう、誰も質問してきていない。
その理由は、私が声を出せないから。
「この学校は都会の一角にあるけれど、タチの悪い不良に支配されているんだよ」
【そうなんだね】
この学校のことを丁寧に教えてくれる彼女へと、返事の代わりに見せているのはスマートフォンの画面。
声が出せない私は、こうして音を持たない文字で、自分の意思を伝えることしか出来ないのだ。