春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
姉は自身の頬をいたわるように手を滑らせると、私との距離を一気に詰めた。

私は必死に後退ったけれど、数歩下がったところに柵があったせいで、追い詰められる形になってしまった。

まずい、どうしよう。

今の姉なら、私を歩道橋の上から落としかねない。

ちらりと後ろを見たら、思ったよりも道路が遠くて一気に血の気が引いた。

こんな高さから落ちたら無事では済まないだろう。


「余所見してるんじゃないわよ。生きてるだけで人を不幸にしている人間が!」


そう言われたって、私にはどうすることもできない。

高い場所で追い詰められたら、誰だって下を見てしまうと思う。


「あんたは消えるべきなのよ!あの人の人生を滅茶苦茶にしたんだからっ!」


あの人。それは、私を好きになってしまったという、姉の恋人…?

それを確かめる術も訊く術も持たない私は、姉にされるがままなのだろう。

気を抜いたら、下に落ちる。いや、落とされる。


「今ここで償いなさい!そうしたら、全部許してあげるわっ!ここから真っ逆さまに落ち――…」
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