春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

満ち欠けしける


もう逢えないと思ってた。

もしも次に逢う時が来たのなら、それは私が全てを思い出してからだと思っていた。


「(維月さん…)」


何度も、何度もその名を呟いた。そうする度に、何と言い表したらいいのか分からない想いが溢れてきた。

それに色は付いていない。何の色にも染まっていないからこそ、どんな色にもなれる。そんな色をしているものが、ふわふわと舞いながら胸の内から溢れ出てくるのだ。

触れたら、弾けてしまいそう。


「汚い手で柚羽に触らないでくれるかな」


この感情は、なに?

私は知らないのに、私の心は知っているようだった。


「……なんでここに、御堂維月がいるのよ…」


項垂れた姉へと、銃口が向けられる。

問いに答えるように、維月さんは長い指を引き金に掛けた。

ゆっくり、ゆっくりと、維月さんは優雅な足取りで近づいてくると、姉の目の前で足を止めた。


「お前から柚羽を守るためだよ」


ねえ、誰か。

誰か、忘れてしまった感情の名前を教えて。

こんなにも私を想ってくれる彼に抱いていた想いの名を、どうか。
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