春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
言われるがままに私は視線を動かした。

見たところ、崇瀬組の人たちはもう維月さんに向かっていないようだけれど…。


(…維月さん?)


何かが、おかしい。

応戦していた維月さんは動きを止めて、三人目の男を見つめていた。

その人はスーツの下にパーカーを着ているのか、フードを深く被っていた。


「…お前は……」


維月さんが銃を少し下ろすと、それに合わせるように男もフードを脱ぎ始める。
はっきりと顔が見えた瞬間、諏訪くんが弾かれたように立ち上がった。


「(諏訪く――)」

「兄さんっ!?」


そう声を上げた諏訪くんは、維月さんと男の元へと一目散に駆けて行った。

お兄さん…って、一年前に私と維月さんを襲ったという、諏訪康煕さん?

紫さんと一緒に居たということは、崇瀬組の人間だったのだろう。
いつからなのか。どうしてなのかは分からない。


「兄さん!今までどこにっ…!?」


「うるせえ、晏吏」


今にも泣きだしそうな顔で駆け寄った諏訪くんの腕を、お兄さんは鬱陶しそうに振り払った。
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