春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

「落ち着けよ、古織。維月さんなら大丈夫だから」


りとが泣きそうな顔をしている。

そうか、私はりとに叩かれたんだ。

私のために、叩いてくれたのだ。


「…ごめん」


「俺の方こそ、叩いてごめん」


私はりとに支えられるようにして、ベッドに戻った。

浅く腰掛ければ、ハンカチで汗を拭っていた医師と目が合う。


「無理はいけませんよ。あの高さから落ちたというのに、打撲で済んだのです。奇跡としか言いようがありません」


あの高さ…それは、歩道橋のことよね?

姉だけでなく紫さん、維月、諏訪くんのお兄さんまで現れ、一年前の同窓会のようになってしまったと思ったら、彼がまたもや私を助けるために落ちかけ…いや、落ちてしまったのだ。


「…そう、ですか」


私のことなんてどうだっていい。早く、維月のことを教えてほしい。

話したいことがたくさんあるの。

あの日からどうしていたのか、聞きたいことがたくさんあるの。


「あの、先生…」


逸る気持ちを抑えきれない私を見て、先生は苦笑を漏らしながら立ち上がった。


「では、行きましょうか」
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