春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
ねぇ、維月。

私はあなたをどれだけ傷つけてしまったのだろう。

冷たい雨に降られたあの日、私に逢いに来たあなたは、泣きながら私を抱きしめた。

はじめましてなんかじゃないのにね。

どこにでもいる、普通の恋人同士だったのにね。

何がいけなかったんだろう。誰もが言うように、全て私のせいなのかな。


「―――入りますよ、御堂さん」


ネームプレートのない病室の扉がゆっくりと開く。

私は大きく息を吸い込んだ。

やっと、やっと会える。もう悲しませるもんか。

誰が何と言おうと、維月と二人で乗り越えてみせる。

そうしたら、私はずっと言えずにいたことを伝えるんだ。


「――…維月っ!!」


私は重い体に鞭を打って、ベッドの上で身を起こし、諏訪くんと言葉を交わしている彼の元へと駆け寄った。

掛け布団の上に放り出されている左手を握り、彼の顔を見上げる。

夕映えの空の色――琥珀色の瞳が、ゆっくりと私を映した。

その、瞬間。


「……君は、誰?」


薄く開いた唇から放たれた声は、予想だにしなかった言葉を紡いだ。
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