春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
私は大きく息を吸い込んで、精一杯の笑顔を浮かべた。
りとは私を心配してそう言ってくれたのだ、きっと。でも、傷つくことを恐れて何もしないのは嫌だ。
私の所為で傷付いてしまった人に失礼だから。
「そんなことしない。私は絶対に離れないよ、りと」
りとの瞳の色が深くなる。
「…なんで」
「自分のことを忘れていると知りながら、維月は逢いに来てくれたから」
「それは、アンタが神苑や姉貴から酷いことをされてるのを知ったから――」
「そうだとしても、嫌だよ」
私はりとの言葉の続きを遮った。
分かってる。りとはヤクザが嫌いだから、友達である私に関わってほしくないと思ってること。その理由は今も分からないし、りとが明かしてくれる日が来るまで、私は永遠に知らないのだろう。
それでも、私は維月から離れるわけにはいかないのだ。離れたくないのだ。
「維月は今の私なんか比べ物にならないくらい、たくさん傷ついたはず。傷つくことを分かっていながら、来てくれたの。だから私は、それ以上の想いを返してあげたい。はじめましてからやり直すよ」