春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
りとの伏し目がちな睫毛が揺れた。
風なんて吹いていないから、彼の瞼が揺らしたのだと思う。
りとは私から目を逸らすと、強かに咲いている花壇の花を見つめながら口を開いた。
「…そんなの、古織が傷つくじゃん」
そう言っているりとが傷ついたような顔をしていた。いや、もうすでに心に傷を作っている。癒えていないというのに、相も変わらず私に心を配ってくれている。
「大丈夫」
「そんなわけない」
どうにかして安心させなければ、と言葉を吐いたけれど、間髪入れずに否定の言葉が返ってきた。
「あるよ」
強めに言うと、珍しくりとが折れた。
濃藍色の瞳を揺らしながら、長めのため息を吐いている。
たぶん、きっと、呆れてる。厭きれられているかもしれない。
それでもいい。そうして、私のことはもう放っておいてくれていいんだよ。
これ以上、迷惑を掛けたくないから。
「私、もう泣かないって決めたの。維月が二度目のはじめましてをしてくれたように、私は三度目をする」