春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
そうは言っても、泣き虫な私は何かに耐え切れなくなったら、一人になった瞬間に泣き出すのだろう。
それは絶対に言ってはいけないことで、知られてはならないことだ。
「…して、どうするの」
「一年前の春からクリスマスまで、維月としてきたことを繰り返すよ。もう一度」
また、ため息を吐かれた。呆れているというより、もう何も言わないという意思表示なのかもしれない。
「…強いね、古織は」
吐息のような声がりとの唇からこぼれ落ちた。私はそれを逃さないように拾ったのち、首を左右に振った。
「そんなことないよ。りとだって…」
「俺は強くないよ。強くなれない。紫さんがいない現実を受け入れられないし、受け入れたくもない」
りとは渇いた笑みを浮かべると、自身の首に寄り添うように巻かれている、ネイビー色のマフラーに指先を這わせた。
無意識なのだろう。乞うように、紫さんがくれたものに触れてしまうのは。
「…それは、私も同じ」
あんなにも優しくて温かい人が、ヤクザだっただなんて。
気まぐれでりとを拾って育てたと言っていたけれど、信じられない。信じたくもない。