春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
あれから四日。維月よりも一足先に退院した私は、怪我の具合でもうしばらく入院しなければならない維月の病室へと向かっていた。

両腕で優しく抱いている冬の花束が、甘く寂しい香りを漂わせている。

病院内で一番日当たりが悪い棟の、一番奥の部屋。

その扉の前で何度か深呼吸をした私は、軽く握った手のひらで扉を叩いた。


「――…あの、入りますね。維月」


「…どうぞ」


よかった、起きているようだ。

私は意を決して、そっと部屋に入った。

維月は上半身を起こして読書をしていた。薄い桃色の花と海が水彩で描かれている表紙には見覚えがある。

それは維月がよく読んでいた小説だ。


「…変な人だね、君は。俺を呼び捨てにしているのに、敬語なんだ?」


そう言うと、読みかけのページに押し花の栞を挟んで顔を上げた。
相も変わらず綺麗な琥珀色の瞳が、私だけを映している。


「す、すみません…」


維月はふふっと笑った。


「いいんだよ、別に。たかが名前だし。それに君は、俺と親しい間柄だったんだろう?」
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