春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「親しい、というか…」


どうしよう。恋人です、と言うべきだろうか。

維月は記憶を喪っていた私に、何と言っていたっけ。

言葉を失った私は、手元にある花束を抱く腕に力を籠めた。

維月は小首を傾げながら、私を不思議そうな目で見ている。

なんだか知らない人みたいだ。目の前にいる維月は、確かに私が知っている維月なのに、私と居た維月じゃないから変な感じがする。

寂しさに似た感情が胸の内を支配している。渦のように回りながら、私の心をいつまでも巣食っているような気がした。

維月が全てを思い出したら、きっと、消えてくれるのだろうけど。


「…もしかして」


徐に口を開いた維月が、伺うような声音で話しかけてきた。

平然としていられずにいる私を見透かしていそうな眼差しに耐えきれなかった私は、そっと視線を外しながら「なんですか」と答えた。


鼓動が加速する。

その続きの言葉は何だろうって。

彼の頭の片隅に、私の残像があったらいいな。と、思わないようにしていたのに期待してしまう。
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