春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「…クリスマスの後、君を守るために維月さんが記憶喪失のふりをしていたことも、知ってた」


じゃあ、あの時諏訪くんが私ではなく維月の傍に居たのは、そういうことだったんだ。

今度こそ私と離れるために演技をするのだと告げていたのだろう。


「どうして…?」


何一つ、言わずに。


「…私は、そんなの望んでない。ただ一緒に居られればいいのに…」


私から離れるために。


「君がそう思っていても、維月さんは違う」


くしゃくしゃに顔を歪めた諏訪くんが、私の両肩を掴んだ。


「一緒に居たくても、居られないんだよ」


何も言わずに行った維月の代わりだとでもいうかのように、必死に言葉を探しながら訴えてくる。


「柚羽チャン。維月さんは、ただ君を守りたいだけなんだ」


そんなの、知っているよ。分かっているよ。

優しすぎる維月が考えそうなことだもの。


「本当は、ずっとずっと一緒に居たいと思う。普通の恋人同士のように。でも、維月さんはヤクザだから。…君を連れて行きたくないんだよ」


肩を掴んでいた手がそっと離れた。
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