春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
ヤクザだから、何だと言うのだ。

同じ人間じゃない。言葉を交わせば分かり合えるじゃない。

どんな風に生きているのかなんてどうだっていいよ。生きる世界が違うと言われたって、彼は私の目の前に居たじゃない。手を伸ばせば触れることが出来る距離で、息をしていたじゃない。

彼の口から「要らない」と言われるまで、私はこの想いを決して失くしはしない。


「……それで、維月はどうするのよっ…」


出窓から漏れる光が、私の手元を明るく照らしている。

光に当たって、白い肌が夕映えの空の色に染まっていた。

私はこの色が大好きだ。あたたかくて、やさしい。綺麗な琥珀色。


「ひとりぼっちなんだよっ…、いつもひとりで泣いているのっ…」


「…そうやって生きていくって決めたんだろうね」


「やだよ、そんなの苦しい…」


目の奥で堪えていたものが、啖呵を切ったように溢れ出てきた。

泣かないって決めたのに。維月のことを想うと、決意という名の鎧はいとも簡単に崩れるんだ。
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