春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「――君が柚羽ちゃん?」


突然現れた男性は中性的な雰囲気を纏い、柔らかい笑顔を浮かべている人だった。

色素の薄い茶色い髪。アーモンド型の細めながら、私の元へと歩み寄って来る。

維月のように黒一色の服を着ているということは、この人もヤクザの関係者なのかな。でも、黒いからという理由でそうと決まっているわけではないだろうし。

その人はベッドサイドに腰掛けると、私の両手を握りしめた。


「ようやく会えて嬉しいよ。維月のやつ、駄目だの一点張りでさぁ…」


「陽向(ひなた)さん、邪魔です、退いてください」


押し退けられたのが気に食わなかったのか、りとは不機嫌そうに眉根を寄せ、男性を押し返した。


「酷いなぁ、璃叶」


男性の名前はひなたさんというらしい。

名前の通り、お日様のような笑顔だ。

陽向さんは肩を竦めると、改まったように咳払いをした。


「ご挨拶が遅れました。俺は御堂組若頭補佐で、維月の大大大親友の日柳(くさなぎ)陽向です。なんと、柚羽ちゃんの見張り番になりました!」


“大”が三つ付いていた気がするのは、聞き間違えだろうか。
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