春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
ねぇ、維月。

あなたは優しい微笑みの裏で、どれほどの悲しみを抱えていたのだろう。

何度心を殺しましたか。泣くことは出来ましたか。誰かに曝け出すことは出来ましたか。

それに気づくことなく幸せに笑っていた私を、恨んでいませんか。


「――…古織」


玉のような涙をこぼす私へと、優しい声が降る。


「りとっ…わたし、」


そっと添えられた手のひらがあたたかくて、優しくて、涙が止まらなくなった。


「…何も言わなくていい。大切な人に置いて行かれた悲しみは、解るから」


私には、こうして背を摩ってくれるやさしい人がいるけれど。

あなたには、あなたのそばには、誰か居てくれているのだろうか。

寄り添って温度を分け与えてくれる人はいるのだろうか。


「……ねぇ、古織」


「…なに、りと」


「維月さんに、逢いたい?」


突然そんなことを口にしたりとの顔を反射的に見上げた。

ネイビーブルーの瞳に、目を丸くさせている私が映っている。


「維月さんに逢いたい?」
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