春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「…そこを退いてください、陽向さん」


「それは無理なお願いだよ、璃叶」


陽向さんの後ろには、すれ違ってきた見張りの人以上の人数が居た。

多勢に無勢だ。もはやこれまでかもしれない。

どうするべきかと思ったその時、外へと繋がる扉が開き、肩から血を流している男性が駆けこんできた。


「陽向さん!緊急事態です!!」


男性は転がるように陽向さんの前にやって来ると、顔をくしゃくしゃにしながら声を上げた。

ただならぬ事態なのか、陽向さんの顔色がサッと変わる。


「どうした」


「崇瀬組の奴ら、俺らが襲撃するのを知ってたみたいで、待ち伏せしててっ…」


「……維月は?」


「分かりませんっ…、でも、若も戦闘に巻き込まれている可能性が高いです」


崇瀬組、襲撃?それに、維月って…?

陽向さんは私たちを横目に舌打ちをすると、その場に居た男たち全員を引き連れ、外へと駆けて行った。

そして、一分も経たないうちに、何台もの黒塗りの車が前の道路を通り過ぎていく。
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