春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
りとに手を引かれるがまま、建物の角を曲がった時。

鮮やかな金色が視界で舞った。


「――ユズハっ!?」


「ヘキルさんっ…?」


そこには、崇瀬組の若頭・ヘキルさんが居た。

驚いたように目を大きくさせていたが、すぐに冷静になったのか、大股で歩み寄って来ると私の両肩を掴んだ。


「…どうしてこんな場所にいるんだっ!?」


「それは…」


「――若!この女は確か、瑞茄様を酷い目に遭わせたとかいう…」


「黙っていろ」


ヘキルさんは口を挟んできた男を視線で一蹴りすると、神妙な面持ちで口を開いた。


「ユズハ、ここは危険だ。今すぐ帰れ」


そんなの分かってる。聞こえてくる声や音から、ここで何が起きているのか理解している。


「嫌です。維月はどこにいるんですか?私を連れて行ってください」


「馬鹿を言うな。今何が起こっているのか分かっているのか?無事では済まないぞ」


どうしたらここを通してくれるのだろう。
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