春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
男が懐から拳銃を取り出した瞬間、背後に居たりとが私の前へと進み出た。
男はりとのことを知っているらしく、拳銃を持つ手を下げる。
「お前はいつぞやの…」
「もう、やめてください。約束は守ったはずです」
約束って、どういうこと?
りとはこの男と知り合いなの?
維月を亡き者にしようとしている男と、何の約束を交わしていたの?
男は私たちの元へと歩み寄ると、りとの顎を指先で持ち上げた。
「…その眼差し、母親にそっくりだ。御堂組と崇瀬組の抗争に巻き込まれて死んだ、哀れな女に」
「…抗争?俺の何を知っているんですか」
男は声を上げて笑うと、りとの顎を掴みながら拳銃を構えた。
太い指先が、引き金へと掛けられる。
「…御堂組から誘拐した女だ」
男の指がゆっくりと動いた瞬間、目の前で赤が飛び散った。
懐かしくてたまらない温もりが、私をこの世の全てから守るように包み込む。
二発目、三発目が、響き渡って。
柔い肌を、貫いた。