春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

組長、と呼ばれた大柄な男から解放されたりとは、目の前で起こったことを理解出来ずにいるのか、足元に転がった拳銃と、目の前に現れた人を交互に見て目を見開いた。

男は顔を顰めながら、息を吐くようにその名を呼ぶ。


「…向坂」


「嘘……」


そう呟いたりとの瞳からこぼれた涙が、玉のように頬を転がり落ちた。


「…やっと、あなたを自由にして差し上げられますね」


現れたのは紫さんだった。

りとを殺そうとした男の肩や足を、背後から狙撃したのだ。それに続くように、紫さんの背後に居た男たちが次々と崇瀬組の男たちを倒していく。

その筆頭には陽向さんが居た。つまり、紫さんが連れて来た人は御堂組の人間ということだ。


「……紫さん、全部知ってたの…?」


「ええ、存じております。柚羽さんの情報を定期的に送る代わりに、僕には手を出さない。そう、この男に脅されていたこと」


紫さんは笑みを剥がすと、蹲っている男を冷たく見下ろした。


「…お前は私への恩を忘れたのか?」
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