春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「大丈夫?」


呆然としている私へと、柔らかい声が降る。

躊躇いがちに伸ばされた手が、私の震える両手を包み込む。


「(あたたかい…)」


その温度に触れた瞬間、堪えていた感情が啖呵を切ったように溢れだした。

怖かった。あの人たちからされそうになったことを思い出すだけで、世界のすべてから目を背けたくなるくらいに。


「…大丈夫、じゃないか。そうだよね」


本当は、声を上げて泣いてしまいたい。

その胸に縋って、涙が枯れ果てるまで泣きたい。

けれど、駄目なんだ。私は他人の胸で泣いてはいけないの。

誰かに言われたわけでもないのに、そうしてはならないのだと、心が言っている気がして。


―――もう、大丈夫だよ。柚羽。


「(っ……!?)」


また、聞こえる。夢の中で、私を呼んでいた人の声が。

急に顔を上げた私を見て、彼が驚いていた。

私自身も、ふいに聞こえた“気がした”声に驚いて、胸の奥が詰まった。
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