春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

「長い間、ひとりにしてしまってごめんね、維月。だというのに、遠くから私を守っていてくれてありが――」


「待って、柚羽」


何か間違ったことを言ってしまったのかと、不安が全身を駆け巡る。


「あの、維月…?」


維月は何度か瞬きをすると、私から視線を外し、斎場を振り返った。


「――それは、俺じゃない」


言っていることの意味がまるで分からなかった私は首を傾げた。


「どういうこと?維月は諏訪くんとりとにお願いをしていたんじゃなかったの?」


「…俺が柚羽を見守り手助けをするよう命じたのは、晏吏だけだ。あの男の子には何も言っていない。それどころか、俺は向坂紫が死んだあの日に、初めてあの子の存在を知った」


「それじゃあ、りとは…」


りとは崇瀬組の組長に脅されたから、私の傍に居たはず。でも、それはいつから?

最初からのはずがない。だって、私が自分の姉のことを話したのは、もっと後のことだもの。

りとが諏訪くんや聡美と一緒に私の傍に居るようになったのは、もっと、もっと後。
< 376 / 381 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop