春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

「――りとっ…!!」


維月と別れ、斎場へと戻った私は、モミの木の下で一人佇んでいるりとの姿を見つけ、名前を呼んだ。

振り向いたりとは、心底驚いたような顔で私を見つめる。


「なんでここにいるんだよ。維月さんと一緒に行ったんじゃなかったの?」


「そうなんだけど…」


何というべきか迷う私を見て、りとは呆れたようにため息を吐いた。


「早く行きなよ。ようやく一緒になれたんだから」


「違うの」


「何が違うんだよ」


「一緒に行けなかった」


りとは「はぁ?」と言い、顔を顰めた。

サッとネクタイを緩め、私へと向き直る。


「意味が分からない。何で一緒に行かなかったの?…アンタを心の底から大事にしてくれてるじゃん」


「だからだよ」


大事だから、連れて行けないんだって。

そう言いたかったのに、嗚咽になって言えなかった。


「…あー、もう、なんで泣いてるんだよ」


りとは面倒くさそうにしていたけれど、泣き出した私の背を優しい手つきで宥め始めた。
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