春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

はらはらと粉雪が降る、真っ白な世界。

降り積もる純白の上に雫を降らせている私を、りとはそっと抱き寄せた。


「…泣きたいのは俺なんだけど」


「わたしだって、泣きたい」


「泣いてるじゃん」


やっぱり、冬なんて大嫌いだ。

寒いだけじゃない。大事なものを全部取られてしまった。


「で、泣いてる理由はなに?維月さんにフラれた?…なんて、あるわけないか」


「あってるけど、ちがう。けど、あってる?もう、わかんない…」


「は?」


りとは間抜けな声を上げた。

私は大きく息を吸って、吐いて。

凍える身体にぬくもりをくれている彼の顔を見上げた。


「もう、維月はいない。私の傍にいないよ。…行っちゃったから」


りとは驚きのあまりに言葉を失ったのか、暫くの間何も言わなかった。

私はちょっとだけ笑った。

さて、これからどうしようか。どうやって生きていこうか。

成人するまで自由に使って構わない、と御堂組が所有しているマンションの一室と、その間生活に困らないくらいの貯えを、維月はくれたけれど。
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