春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
ほどなくして、私と諏訪くんしかいない倉庫に誰かの足音が響く。

諏訪くんは私の手を離すと、心底面倒くさそうな顔をして立ち上がった。

それにつられるように泣き果てた顔を上げた私は、そこにいる人物を見て大きく目を見開いた。


「(…あ……)」


忘れはしない。

私のスマートフォンを拾ってくれた、紺色の瞳の男の子だ。


「―――晏吏。さっき逃げ出した神苑のやつら、晃を連れて来てる」


「えー。痛いよ」


「幹部だから、当たり前」


どうやら、幹部の晃(あきら)という人が来ているらしい。

彼はそれを知らせにここに来たようだが…。


(あれ……?)


以前聡美が言っていたことが確かならば、諏訪くんに関わった人間は神苑の人たちに制裁を下されるはずだ。

今の様子からすると、諏訪くんと彼は、知り合い…いや、友達のように見える。

私が知る限りでは、この男の子は私と聡美、諏訪くんのクラスメイトで、いつもひとりで本を読んでいるような子だ。

品行方正な雰囲気から、暴走族とやらに入っているような人間には見えない。
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