春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「…なに?」


どうやら私は彼の顔をジッと見つめていたらしい。
慌てて目を逸らし、涙で濡れた目元をゴシゴシと袖で拭った。


「(なんでも、ないです)」


そう唇を動かせば、彼は「そう」と言うなり、諏訪くんへと視線を戻す。


「…そういうわけだから、後はよろしく」


何を頼んでいるのだろう。
諏訪くんが困った顔をしているということは、あまりよくないことなのかもしれない。

こっちに向かっているアキラという人に何か関係があるのだろうか。

ポツリと疑問が生まれてくるけれど、聞いてはいけないような気がした。


「…古織さん。アンタは俺と一緒に来て」


「(え…?)」


「ここに居たら危険だから」


彼は私に賛同をする間も与えること無く、私の手を掴んで裏口へと向かっていく。

去り際に、彼が諏訪くんに目配せをしていたのを見た。

それに頷き返す諏訪くんの横顔も、はっきりと見えた。


「(諏訪くんは?諏訪くんは、一緒に行かないの?)」
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