春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
声にならない声が、音にならない言葉が、涙となって溢れてくる。

誰も、誰の耳にも届かない、永遠に音にならない私の声。

声を出せないうえ、記憶もなくて、あんな風に恨まれて。

いっそのこと、消えてしまいたいと思った。

消えてしまえば、もう悩むことも恨まれることも苦しむこともない。
欠損品の私なんて、いない方がいいのだ。


「……何者でもないよ。アンタはアンタでしょ」


「(…でも、)」


「…無理に思い出すことはない。忘れたいから忘れたのかもしれないし」


どこか冷たい、独特の雰囲気を醸し出している彼の声は、とても優しかった。

死神と呼ばれている人の温度が温かかったように、私の頭をひと撫でした彼の手も熱い。


「…そんな顔しないでよ。アンタは笑っていて」


まだ出逢って間もないというのに、贈られた言葉は果てのない想いで満ちていた。

ひょっとしたら、彼は私のことを知っているのかもしれない。

私が忘れてしまったことも、知っているのだろう。

そうでなければ、あの場所に現れるはずがないから。
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