春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「…俺はりと。何かあったら言って」


りと、と唇を動かして頷けば、彼が笑う気配がした。

私は逃げるように、「さよなら」と口パクで言って、駅へと歩き出した。

今日の出来事が全て夢であればいいのに、と切に願いながら。






この時の私は、まだ何も知らなかった。

私を取り巻く全てが、着々と動き始めていることに。

もう後戻り出来ないところまで来てしまったことに。


「ーーーもしもし?」


少女の背を見送った青年・りとは着信を知らせている携帯を手に取り、耳に押し当てた。

電話の相手は、青年の予想通りの人物。


「…うん、分かってる。……ああ、そういえば、一つ報告が」


青年の紺色の瞳が、スッと細められる。


「───見つけたよ。古織 柚羽」
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