春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「―――この突き当りにあるのが、PC室。その隣は第二資料室で…」
流石はマンモス校。
全校生徒が1000人を超えるだけあり、校舎内はとても広い。
教室を除いて、授業で使われる場所や施設を案内してもらった私は、親切な彼女に頭を下げた。
「気にしないで。あ、私のことは聡美(さとみ)って呼んでね」
そう言って、屈託のない笑顔を浮かべた彼女を見て、自然と頬が緩んでいくのを感じた。
まさかこんなにも優しい子に出逢えるとは思っていなかった。
声を出すことが出来ない私に対して、大抵の人は面倒だという理由で離れていくと思っていたから。
彼女は「はい」か「いいえ」で答えられる質問をしながら、校舎内を先導して歩いていく。
その途中、ある階段の前で足を止めると、周りに人がいないことを確認してそっと耳打ちしてきた。
「柚羽ちゃん。この階段は絶対に使っちゃだめだよ。階段は中央のものか、職員室の横のものを使うのが暗黙のルールなの」