春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
どうして、と唇を動かす。
けれどそれは音になっていない。
私は慌ててスマートフォンを取り出し、言葉を乗せようとしたのだが。
「ーー暴走族の溜まり場に直通しているから、だよ」
私の声にならない言葉に返事をしたのは、突然現れた男性だった。
中性的な容姿。ほんの少し捲られたワイシャツの袖からは、白く細い腕が見える。
男性は妖艶な微笑みを飾りながら、私たちの元へと歩み寄ってきた。
「ココ、中央高校は、関東一の暴走族・神苑のメンバーの殆どが通っているからねぇ」
男性と私たちの距離が縮まるほどに、隣にいる聡美の顔が強張っていく。
どうしたの、と唇を動かそうとした瞬間、聡美は私の手首を掴んだ。
ただならぬ様子から、この男性が危険な人物であることを匂わせている。
「外の世界、真夜中の時間では神苑のメンバー。学校では不良のグループと化している、という感じかな?」
そうだよね?と男性が首を傾げた途端に、聡美は私の手を引いて走り出した。