春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
神苑の幹部・村井。

そう呼ばれた男は、野次馬の歓声と無数の視線を背に、舐めまわすような目で聡美を見る。

右手の中指で眼鏡を押し上げると、重苦しいため息を吐いた。


「手荒な真似はしたくない。怪我をしたくなければ、其処を退きたまえ」


「嫌です」


男は痺れを切らしたのか、脅すような姿勢をとった。

私から男までの距離は、教室の机四つぶん。聡美までは、手を伸ばせば届くくらい。


「君は俺を神苑の幹部と知っていて、邪魔をするのか?」


男の眼差しに険が刻まれる。

逆らうのか?と、遠回しに言っているのだ。

鋭い眼光を向けられ、思わず息を飲んでしまった。

怖気づいた私とは反対に、聡美は強かった。一歩も引かないとでも言いたげな顔で、村井さんとやらを見つめ返している。


「…神苑の人間なら、何をしてもいいんですか?暴走族ってそんなに偉いんですか?」
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