春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
男は二度目のため息の吐いた。

ポケットに入れていた手を出し、私たちを睨みつける。


「…君がどう思おうが勝手だが、ここは我々が支配しているということを忘れるなよ」


そう言うと、男は去って行った。

ようやくその姿が見えなくなった頃、私を庇い立っていた聡美が体ごと此方へ向き直る。


「…ごめん、柚羽。何の用で来たのかも聞かずに、一方的に言いすぎちゃった」


「(ううん…)」


私は首を左右に振った。

申し訳なさそうに謝ってくるけれど、そうしたいのは私の方だ。

聡美が庇ってくれなかったら、何を言われていたか分からないし、声を持たない私は何も言い返せなかっただろうから。


「(ありがとう、聡美)」


聡美は泣き笑いをした。


「あいつらは柚羽に何の恨みがあるのか知らないけど、柚羽のことは傷つけさせないからね」


「(聡美……)」


ほんの少し前まで、神苑の脅威に脅えていたのに。

出会いというものは、時に人をも変えるものなのだ。
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