春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「篠宮、あんた、そういう人だったっけ?」


「(聡美?)」


聡美が言っている言葉の意味がまるで分からない。
そういう人って、蹴ったり殴ったりできる人のことだろうか。


真剣な目をしている二人を余所に、諏訪くんは戯けたように笑いながら、神苑の男たちを追い払っていた。

生徒たちから危惧されている死神に助けられた男子生徒は、差し出されたハンカチを顔に当てながら、何度も何度も頭を下げて去って行く。


諏訪くんの意外な一面をこの目で見た私は、ただただその背を凝視していた。

一体彼のどこが死神なんだろうって。

見た目は怖いけど、普通に優しい人なんじゃないかって。

聡美に腕を引かれたことによって、その思考は中断されてしまったのだけれど。


「…傍観しているつもりだったんだけどね」


「何を?」


りとはそれ以上答えるつもりはないらしく、諏訪くんが戻ってきたのを確認すると、校舎の方へ歩き出してしまった。

残された聡美は、どこか腑に落ちない顔で二人の背を見送り、ガックリと肩を落とした。
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